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U-SPORT ActionNews 第3弾

「交ざる(=誰もが自然に一緒にいられる場をつくる)設計」で文化にする

 

パラサポ 山本恵理*さんが語る、ボートレース場発インクルーシブな環境の実現

*山本恵理さん プロフィール
先天性の二分脊椎症により、生まれつき足が不自由。
日本財団パラスポーツサポートセンターのDE&Iプログラム推進部ディレクターとして、全国で年間約900回実施する教育・研修プログラム「あすチャレ!」プログラムのコンテンツ開発・講師育成・講師をつとめる。
アスリートとしては、パラ・パワーリフティングの現役選手としてパラリンピック出場を目指す。

いまボートレース場では、障害のある人もない人も一緒に楽しめるイベント「スポパラ!」が開催されている。「スポパラ!」は、全国のボートレース場を舞台に、障害の有無や年齢を問わず、誰もが一緒に遊び、体を動かし、パラスポーツ体験やアスリートとの交流を楽しめるインクルーシブイベントである。パラスポーツ体験や遊びの要素を組み合わせることで、偶然の参加やパラスポーツに“交ざる体験”が生まれる設計となっている。
日本財団パラスポーツサポートセンター(以下「パラサポ」という)は、10年間積み上げてきた「あすチャレ!」のノウハウを活かし、このボートレース場におけるイベントの企画運営面での協力を行っている。今回、このイベントに焦点を当てて、パラサポに取材した。
本記事は、地域施設と連携しながらインクルーシブな環境づくりを進める実践事例として、自治体・企業・競技団体がパラスポーツ施策を検討する際のヒントを提示することを目的としている。

ボートレース場で始まった「スポパラ!」――なぜボートレース場なのか

地方に行くほど根強い遠慮の壁を崩したい。そう考えていた矢先に出会ったのが、ボートレース場での取組だった。
会場はユニバーサルデザインが進み、ボートレース場には「家族連れや地域の幅広い世代に来てもらう施設へ変わろうとする意識」が根づきつつあった。
パラサポもまた交ざる接点を広くつくり、障害のある人やその家族がもつ「行ってもいいのかな」という不安の解消を目指し、「こういうイベントがあることで安心して来てもらいたい」という想いを抱いていた。
両者の想いが一致したことで、ボートレース場で、障害の有無に関係なく、同じ空間で自然に過ごし、同じ体験を楽しむイベント「スポパラ!」が生まれた。

あすチャレ!の10年が土台」――する・みる・支えるを回す

パラサポは「あすチャレ!」という取組を2016年から継続している。
このプログラムは、学校や自治体、企業などに対し、障害や共生社会への理解を深めるための出前授業やセミナーを行うものであるが、参加者が“気づき”を得やすく、現場の反応が良いことから、同じ学校や自治体から再度依頼を受けることも多い。
この事業を通じて、授業→体験→再訪の循環を積み上げ、そこで培った声かけ・導線設計・体験企画のノウハウが、「スポパラ!」の骨格となっている。
山本さんは「交ざる・つながるを最初に共有する」ことを徹底している。
来場者の不安を入場早々からほぐし、「誰もが対象である」ことを伝える運用が重要だ。
「障害がある人もない人も、みんなが安心して来られるイベントがある――その安心感をまずつくることが大切」(山本さん)

ボートレース場×スポパラ!――主催構造と「交ざる」ための設計

スポパラ!は、ボートレース場を運営する関係団体が主体となり、自治体や関係機関と連携して実施されている。開催においては自治体の障害福祉担当課やスポーツ担当課、教育委員会などと連携し、横展開できるのが強みだ。来場誘因はレース観戦だけではない。
アスリートと遊ぶ、体を動かす、謎解き、屋台など、多様な入口を用意し、偶然の出会いを増やす。
この設計思想により、見に来ただけの家族が、自然と参加者へ変わるきっかけになる。

「交ぜたらいいではなく、どう設計すれば交ざれるかただ同じ空間に一緒にいるだけの”交ざる”ではなく、どう設計すればうまく交ざれるかを考える。声かけから始めるのがコツ」(山本さん)

きっかけで終わらせない――イベントから日常へ

「スポパラ!」は、障害の有無に関わらず 、誰もが自然に一緒にいられる場をつくるきっかけだが、そこで終わらせない工夫もしている。
ボートレース場内に、スポーツイベントやアクティビティで日頃使われている車いすを常設し、日常でも使える環境を整える。
子どもが「いつも遊んでいるから大丈夫」と言える状態は、特別な準備がなくても安心して参加できる日常が育ってきた証であり、タイヤの擦れ跡やフレームの傷は多くの人が実際に使い、常設された車いすが日常的に活用されていることを示す跡でもある。

継続の条件――横の連携と“現場で試す”

継続の鍵は、自治体の中で教育・福祉・スポーツ・市民協働などの担当部署が横につながることだ。
同じ自治体であっても、各部局が単独で取り組むだけでは面として広がらない。
山本さんは、行政に対して「横のつながりを深め、同じ目的で一緒にやる経験を増やしてほしい」と期待を寄せる。
また自身でも、過去にできなかったことをイベントで試す方針を貫く。
例えば、車いすユーザーにとって、「階段があって次の謎に進めなかった謎解き、低すぎて手が届かなかった屋台のスーパーボールすくい」など。
こうした気づきを取組に繋げることの繰り返しが、誰もが参加できる環境を少しずつ広げ、取組の持続力を高めていく。

パラサポが実践する「交じるイベント設計」――自治体・主催者向けチェックポイント

パラサポはこれまでの多数の現場経験から、「障害の有無に関係なく、誰もが自然に一緒にいられるイベント」を実現するためのノウハウを蓄積してきた。
ボートレース場をはじめとした地域施設との協働を通じて6つのポイントとして整理した。

✓ 主催者の目的をそろえる(イベントの軸を共有する)
施設・行政(教育/福祉/スポーツ部局)が共通の目的を持ち、同じメッセージで告知を行う。

✓ “対象外をつくらない”告知
特別支援学校や自治体、地域へのポスティングまで網羅し、誰でも参加できることを前面に出す。

✓ 声かけ設計 × ボランティア研修
開場直前にキックオフ・ブリーフィングを行い、「交じる・つながる」を共有する。

✓ 常設化で“日常に戻す”
車いす/用具を常設配置し、次回来場の自己効力感を担保。劣化の跡=活用の証拠として記録する。

✓ 学校 × 地域の往復
授業 → 体験 → 観戦 → 運動会 → 地域イベントの通年導線を設計する。

✓ KPIを“人の行動”に寄せる
①再来率、②観戦→体験→クラブ移行率、③横連携の年次増分、④常設用具の利用回数/改善件数。

取組を通じて感じること――「スポパラ!」で地域のインクルーシブを進める

ゴールは、特定のパラスポーツイベントに寄せることではない。どの地域でも「来れば交ざれる」場が当たり前にある状態を増やすことだ。
そのために重要なのは、自治体における教育・福祉・スポーツなどの担当部署が連携すること、そして用具や導線を常設化すること。
イベントを起点にしながら、日常に戻っても交ざれる環境を整備していくことが求められる。
重視すべきはイベントの数ではなく、参加者の再来率を上げること。
授業→体験→観戦→地域イベントの流れを通年で循環させ、「あたりまえの風景」として地域ごとに設計する。
山本さんが繰り返し語るのは、「一度見てもらえれば変わる。一度来て、自分ごと化(体験)すれば変わる」という確信だ。

日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ)
pr@parasapo.tokyo
東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル4階

(文責:株式会社コクーンエイト)

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