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U-SPORT ActionNews 第2弾

01 「水泳でもっと自分らしく」

 

― 知的障害者水泳の未来を支える“競技力”と“普及”の両輪

記録更新も相次ぎ、盛況のうちに幕を閉じた今春の知的障害者水泳の全国大会。

パラリンピックでメダリストを輩出し続けるなど、競技としては成熟の段階にあるように見える。

しかし、競技の「現在地」をどう捉え、未来につなぐか――その問いと向き合い続けているのが、日本知的障害者水泳連盟(以下「連盟」という)だ。

技術と覚悟を受け継ぐ“バトン”  競技力向上における次世代への刺激

育成選手から強化選手、そしてトップ選手へと成長していく選手たちは、日々の鍛錬と情熱をもって競技に向き合い、働きながら競技を続ける姿勢に多くの選手や保護者から尊敬のまなざしが向けられている。
その姿は、競技に取り組む後輩たちにとって大きな刺激となり、憧れの対象ともなっている。

競技会や合宿などの場で、そうした選手と顔を合わせ、会話を交わしたりアドバイスを受けたりする中で、次世代選手の中には「自分もあの舞台に立ちたい」「あの人のように努力したい」といった強い向上心が芽生えている。

こうした世代を超えた交流は、単なる技術や知識の伝達にとどまらず、競技に対する姿勢や覚悟までも受け継ぐ“バトン”となり、競技力の向上と継続的な発展を支える大きな力となっている。

小中学生への“普及”が課題地域の体験格差を超える普及活動の工夫

一方で、競技の普及には、なお多くの課題が残る。特に小中学生年代へのアプローチは限定的で、「知的障害があっても水泳が楽しめる」こと自体が、地域によっては十分に知られていないケースも少なくない。
そうした現状を受け、連盟では初心者向け講習会や体験会、地方自治体と連携した育成合宿などを実施。

たとえば九州地域では、行政の協力のもと、若手選手に向けたコーチ派遣型の強化プログラムがスタートしている。
今後、こうした地域密着型の取り組みが全国へと広がれば、「知的障害水泳」の存在が教育現場や家庭に届き、より多くの子どもたちにとっての“競技の入り口”が開かれていくはずだ。

年齢や経験を超えて泳ぐ 水泳が持つ“生涯スポーツ”としての魅力

水泳には、年齢や障害の有無を問わず長く続けられる柔軟性がある。日本では幼少期から多くの子どもが水泳教室に通う文化が根付いており、「最初のスポーツ」としての身近さも特徴的だ。

水泳が特にユニークなのは、その“続けやすさ”にある。

「タイムが近ければ年齢関係なく競えるのが、知的水泳競技の面白さです」と連盟担当者が語るように、知的障害水泳においてもその特性は活かされており、大会では年齢やカテゴリーを問わない。またこの競技構造は、引退後も選手が地域で指導者として関わり続ける土壌にもなっており、水泳が“生涯スポーツ”として持つ力を示している。

「自分らしく」泳ぎ続ける社会へ競技と社会をつなぐ連盟の理念

連盟の理念は、「水泳でもっと自分らしく」。
記録や勝敗だけでなく、人としての成長や社会とのつながりを大切にする。その想いは、創設当初から変わらない。
障害があっても、自立して運動できる力を育む。誰かの支えを借りながらでも、自分の意思で競技に向き合い、社会の中で役割を果たしていける――それが、連盟が長年取り組んできた“支援”のかたちだ。

競技力と普及の両輪を回しながら、選手一人ひとりが「自分らしく」泳げる社会をつくる。その静かな挑戦は、確かに未来へと受け継がれている。

一般社団法人日本知的障害者水泳連盟
mousikomi@jsfpid.com
〒107-0052
東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル4F
パラスポーツサポートセンター内
https://www.b-soccer.jp/

02 人間中心設計が拓く共生社会

 

― U’eyes Designが描くパラスポーツ支援の未来
スポーツ×UXがもたらす新たな価値

「駅や空港のアクセシビリティ支援を行うなかで、“もっとできることがあるのではないか”と感じたんです」。
そう語るのは、UX※デザインの専門企業株式会社U’eyes Designの山本氏。

3年前、偶然出会ったU-SPORT PROJECTのブースをきっかけに、同社はパラスポーツ支援に踏み出した。

社員に視覚障害のあるエンジニアがいたこと、社会貢献性の高い事業への志向、そして「自分自身がスポーツ好きだったから」と笑う山本氏。
さまざまな思いが重なり、企業としての一歩が生まれた。

※User Experience/ユーザー体験の略。
ユーザーが製品やサービスを利用する中で感じる「使いやすさ」「心地よさ」「満足度」などの総合的な体験を指す。

UXという専門性を、社会の中へ

同社の強みは、「人間中心設計(HCD)」の考え方にある。心理学、認知科学、文化人類学など多分野を融合し、「誰が、なぜその体験を求めているのか」を徹底的に掘り下げる。

その姿勢は、プロダクト開発だけでなく、パラスポーツ大会のような“人が集う場”の設計にも応用されている。

同じようにパラスポーツを支援し、パラスポーツイベントの運営を行う会社が関わるボッチャイベントでは、以下の4つのUX観点をもとに提案を行ったという。

①事前に分かる(開催情報や体験内容が明確に届く)
②迷わずたどり着ける(アクセシブルな動線設計)
③共に楽しめる(障害の有無を超えて一体感をつくる)
④次につながる(“また参加したい”と思える体験へ)

特に“③共に楽しめる”視点は、来場者だけでなく、スポンサーの満足度にも直結する。「競技の合間の“待ち時間”をいかに価値ある時間に変えるか。

その設計こそが、競技会、大会を含んでイベント全体の体験価値を高める鍵になる。また、スポーツの場が持つ“心のバリアフリー”効果にも注目している。

障害の有無を越えて、同じ時間・空間を共有し、自然と笑顔が生まれる。そうした“心の距離”を縮める力こそが、スポーツの本質だと感じています。」と山本氏は語る。

「この業界を、広く・浅く・長く」支える

同社がめざすのは、一過性のCSRではなく、UXという専門性を通じた持続可能な貢献だ。
福祉やパラスポーツの領域は課題も多いと聞くが、「横に広がっていく可能性が大きい」と山本氏は話す。

近年では、空港や鉄道といった公共インフラ領域での実績も増えており、「イベント時だけではなく、“行く前”“帰るまで”の体験全体を設計する力」がパラスポーツ支援にも生かされている。

未来への展望―――パラスポーツを“社会の設計図”に

今後の展望について山本氏は、「UXの力で、日本を“生活イノベーション大国”として世界から尊敬されるような社会モデルにしたい」と語る。その中で、パラスポーツは大きな役割を果たすと見ている。

「どんな人も当たり前に参加できる設計を、まずはスポーツの場から広げていく。そして、それを福祉、高齢者支援、街づくりへと展開していきたい」。

また、同社は、こうした支援活動を一方的な社会貢献と捉えていない。パラスポーツの現場にこそ、今後の社会に求められる“インクルーシブなデザイン”の本質が詰まっていると捉えている。

多様な価値観や感性に触れることは、UXデザインの専門企業としての視野を広げるだけでなく、他者の立場に想いを巡らせる姿勢や、利他的なまなざしを育む機会にもなっている。

こうした活動は、社会との関わりを深めるだけでなく、同社にとっても未来を見据えた成長の土台になりつつある。

そんなビジョンが、同社の活動の根底にはある。UXという確かな技術と、社会課題へのまなざし。その両輪で、同社は、誰もが気持ちよく過ごせる社会の実現を、着実に前へ進めている。

株式会社U’eyes Design
【本社】
〒150-0012
東京都渋谷区広尾1-1-39
恵比寿プライムスクエアタワー8F
https://www.ueyesdesign.co.jp/

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