U-SPORT PROJECT

産経新聞社

産経新聞社“ふくのわプロジェクト”
“服”から“福”の輪を生み出すパラスポーツ応援事業

「U-SPORT PROJECTコンソーシアム」では、パラスポーツ団体、民間企業、地方公共団体等が、それぞれの持つ強みやリソースを、他団体との連携により継続性・持続性のある新たな取組に繋げることを目指しています。
今回は、コンソーシアムに加盟した団体にインタビューを行い、どういった取組をされているのかを教えていただきました。第1回は、産経新聞社の取組をご紹介します。

社員発案で2016年にスタートした“ふくのわプロジェクト”

首都圏・近畿圏を中心に全国展開する日本有数のメディアである産経新聞社。1933年の創刊以来、新聞社としての社会的責任を果たすことを理念に、幅広い分野で情報を発信している。また、1963年には新聞社では国内で初めて「新聞奨学生制度」を創設するなど、明るい未来の創出に向けた社会づくりにも貢献してきた。

パラスポーツへの関わりも早く、今年で10年目を迎えたパラスポーツを応援する“ふくのわプロジェクト”がスタートしたのは2016年のこと。当時は東京2020パラリンピック競技大会開催が決定していたものの、パラスポーツの認知度は決して高くはなかった。そうしたなか同プロジェクトを設立した背景について、担当者はこう語る。

「日本の衣類の供給量は年間約100万トンと非常に多いのですが、一方でリユースやリサイクルについてはほとんど進んでいないのが現状です。その理由は、古着の買取価格が安価なために廃棄する方が楽と思われていたり、古着の回収方法が地域によって異なるため浸透していかないことが挙げられます。当時のそうした実情を雑誌で知った弊社の社員が、『自分のためとなると上がらない重い腰も、誰かの役に立つとなれば行動に移すようになるのではないか。そういう仕組みを作ってはどうだろうか』と思いついたのが始まりでした。ちょうど東京パラリンピックへの機運が少しずつ高まり始めていた時期ということもあり、不要な衣類の再利用でパラスポーツを応援する“ふくのわプロジェクト”が2016年にスタートしました」

寄付の方法は3つある。まずは専用サイトで宅配キット“おうちでふくのわ”を購入し、専用の袋に梱包して送るという方法だ。また自宅にある段ボールなどに梱包したものを茨城県にある提携先企業の指定倉庫に直接送ることもできる(送料負担)。さらに都内を中心にスポーツ施設や公共施設には“ふくのわBOX”を設置しており、そこへ直接持ち込む方法もある。

“ふくのわBOX”は、産経新聞社の本社がある東京サンケイビル(千代田区大手町)にも設置されており、誰でも自由に衣類を持ち込むことができる。年々、社内でも認知度が高まり、今では衣替えの季節になると自宅から不要な衣服を持ち込む社員の姿をよく見かけるようになってきた。

回収した衣類は1キロ当たり7円(提携倉庫に直接送付の場合は10円)で専門業者が買い取り、マレーシアにある提携の工場へと輸送されて選別される。バングラデシュやパキスタンなど東南アジアを中心に世界15カ国でリユース再販売されているが、日本からの古着は質が良く、現地では人気が高い。

また、産経新聞社では年に数回、 大手町の一角で“ふくのわマルシェ”を実施し、回収した衣類のリユース販売会を行っている。オープンスペースのため、同社社員に限らず、一般の方も購入することができる。徐々にリピーターも増え、社員からは「これ、“ふくのわマルシェ”で購入した服なんですよ」と話題にのぼることもあるという。プロジェクトメンバーにとっては、そうしたひと言がモチベーションの一つになっている。

パラスポーツ交流事業で生まれる笑顔と輝き

さて、これまで回収した衣類は、2025年1月時点で累計約1230トンにのぼり、その収益金からパラバレーボール、パラ水泳、知的障害者水泳、パラカヌー、パラ・パワーリフティングの5つの競技団体に寄付している。

さらに収益金の一部を活用し、学校などでパラアスリートと触れ合いながらパラスポーツ体験をする交流会を、年1回ほど開催している。参加者から好評で、特に子どもたちは目を輝かせながら競技のデモンストレーションにくぎ付けになり、質疑応答の時間にはたくさんの手が挙がる。

「東京大会をきっかけに現在もオリパラ教育に熱心に取り組まれている学校も多いのですが、実際に選手と触れ合う機会は少ないので、こうしたイベントはとても喜ばれています。特に子どもたちがアスリートの皆さんが目の前でするパフォーマンスに目を輝かせているのを見ると、こうしたイベントの意義を感じます。またアスリートの皆さんにとっても、子どもたちの反応を間近で感じられるのは嬉しいようです。イベントを通じて応援してくれる人たちが増えて、それが大きな励みや強みになるということをよく耳にします」

2024年には、都内の小学校において、東京2020パラリンピックで日本人最高位の6位入賞を果たした、パラ・パワーリフティングの宇城元選手などとの交流授業(https://adv.sankei.com/case/-/3182/)を実施した。

「宇城選手には東京パラリンピックで6位入賞した際の賞状を持参していただき、子どもたちに見せていただいたんです。私たちも初めて見たので感動したのですが、子どもたちも大喜びでした。選手ジャージも見せていただいたので帰り際には『着たい!着たい!』と言って群がるほどだったんです。宇城選手自身も東京大会は無観客だったので、目の前で子どもたちに喜んでもらえてとても嬉しかったとおっしゃっていました。弊社としてそういう場を提供させていただいていることをとてもありがたいと思いましたし、今後もこうした直接触れ合う場をつくっていきたいと改めて思いました」

また“ふくのわプロジェクト”により、この9年間でパラスポーツの競技団体とのつながりも深まっている。寄付先の競技団体では衣類の回収や、アスリートとの交流の場の提供にも快く応じ、率先して協力してくれる関係性が築かれている。

さらに、社会課題解決の促進という意味でも、同プロジェクトの意義は大きい。衣類のリユースが、ゴミ削減だけでなく、パラスポーツの支援にもつながっていることを知り、“ふくのわプロジェクト”を寄付先に選ぶ自治体も増えている。

こうして着実に広がりを見せている“ふくのわプロジェクト”だが、「まだまだ認知度を上げていかなければいけない」と担当者は語る。持続可能な事業とするためにも、さらに輪を広げていくことが最大の課題だ。

「おかげさまで少しずつ知っていただけるようになってきましたが、認知度としては正直まだまだだと感じています。誰もが購入した衣類を手放す時が来ます。その時にゴミとして処分するのではなく、ふと“ふくのわプロジェクト”があったなと思い出し、行動に移してくださる人が1人でも増えて、1枚でも多くの衣類を寄付していただけるようにしたいと思っています。その積み重ねが収益金の増加となり、その分パラスポーツ競技団体を応援することができます。そして、共生社会の実現へとつながっていきます。今後はさまざまな企業様や競技団体、施設、地方自治体などとの共創ネットワークを広げていき、“ふくのわプロジェクト”をさらに発展させていきたいと思っています」

1枚の服が“福”の輪に――。
そんな思いが込められた“ふくのわプロジェクト”が、「U-SPORT PROJECTコンソーシアム」への加盟で、さらに全国へと広がることが期待される。

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